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むかし、むかし、わたしがまだ幼稚園の頃。

「おままごと」が流行っていて、幼稚園で、そして、帰ってからも外で友達としていた。

お母さん役がやりたかったが、内気なわたしは言えなかった。
すると、いつもお父さん役にさせられた。
「ただいま~!」
ビニールシートの玄関から入る。
「お帰りなさい、あなた。紗依ちゃん、そこ玄関じゃないよっ!」
と、いつもしかられる。わたしはオドオドしながら玄関を探した。
「な、ない。どこ?」
「もうっ! ここだってば!」
「えっ、どこが違うの?」
いつも違う場所だ。全く違いがわからないまま、お芝居は続く。
「今日は会社で何があったの?」
「えっ、えっと……」
「また、紗依ちゃん! 適当に答えればいいんだってば!」
「そんなこと言われても……」
―― うちの両親はそんなこと言わないし。
と、心の中でつぶやき泣きそうになる。
「じゃ、いいよ! 紗依ちゃん、今度、お母さん役ね」
念願のお母さん役だ。
「トントントン……トントントン」(野菜を刻むまね)
「ただいま~。疲れたぞ!」
「お帰りなさい、あなた」
「……」
次が進まない。
お父さん役がキレた!
「紗依ちゃん! もう、野菜切るなら本当に切ってよ」
—— えっ? そこ?
困ったわたしは言われるがまま、その辺の草を引き抜いて刻み始めた。
意外とプラスチックの包丁でも切れる。
得意になって切っていると変なにおいがしてきた。
―― なんだ?
お父さん役の友達が言った。
「くっさ。臭いから帰る」
友達はすぐに立ち去ってしまった。
私もやめて帰ろうとすると、おばさんの声がした。
「こ、こらっ !」
—— なに? このおばちゃん、なに?
「うちのニラ盗っただろ!」
「えっ?」
—— あれ、野菜だったんだ……。
「うわ~ん。ごめんなさい」
謝ったものの、こっぴどくしかられ、それからは決してお母さん役はやらないと決めたのだった。

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