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小料理屋の女将を引き受け、板前さんとオープンに向けてメニューの内容などを決めていた時期に、さまざまな店で飲食をした。
長年に渡り経験のある板前さんは言った。
「お客様に説明するためにも、いろいろ食べておかないとね。女将としてスペシャリスト目指してほしい」
こんなことを何度も言われ、すごくプレッシャーに思いながらも食べ歩いた。
板前さんのこだわりが強く、自分の料理ひとつひとつを客に説明したいらしい。私にその役を強く望んだのだ。

実際、オープンすると、前菜には食前酒がつき、お料理によって柚子や梅など季節のお酒が一口付けられていたり、前菜は3点盛が通常で、たち豆腐(白子豆腐)や氷頭(ひず)、時にはミモレットという斬新なものがあったりした。
お客様のほとんどが質問してくるので、質問される前に私が一点一点説明しなければならない。

板前さんがいつものように、コースの内容が書かれた紙を私に渡した。
その日はいつもよりランチの人の入りが多く、片付けや仕込みなどの時間が押していて、夜の宴会の打ち合わせがほとんどできずに店を開けた。
忙しさのあまり板前さんはテンパっている。私もお客様がどんどん入り、注文に追われていた。

「はい、前菜!」と、板前さんがテンパりながら私に渡す。
皿には見たことのないものが盛られていた。
「板さん!これなんですか?」
「紙に書いただろ!」そう言われ、渡された紙で確認。
私はそれを持って、お客様へ出した。すると、すかさずお客様が言った。
「これ、なんですか?」
「あ、これですね、これは……。イベリの、子豚です」
一瞬、沈黙になったのだが、すぐにお客様が笑い出した。「女将、おもしろいこというねぇ~。ハハハ……」
—— な、なに? 私、変なこと、言った?
すぐに厨房に戻り、板前さんに聞いた。
「おまえ、あほか? イベリコ豚だぞ! イベリコ地方の豚だろ!」
—— いやいや、はずかしー。
私は赤面しながら再度お客様のところで説明させていただきました。

その後、そのお客様は、私がおもしろいからと常連になってくれたので、それはそれで良かった(笑)

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