
母の弟は50代で早くに亡くなった。
普段は無口で優しく、酒を飲むと陽気だった。
母ととても仲がよく、家によく来ていた。
伯父が亡くなった頃のことについて、姉は言った。
「あの叔父さん、小さい頃にお人形買ってくれたよね」
「そうなの?」
—— わたしには買ってくれなかったけどな……。
そういえば!
わたしが結婚するとき、冷蔵庫を買ってくれた。それも当時としてはかなり高いものだ!
でも、何でそんな高いの買ってくれたんだろ? 不思議……。
そうそう、わたしが離婚するか悩んでいた時期に実家で叔父と会ったことがあった。
そのとき、母はめずらしく留守で叔父といろいろな話をした。
「紗依は思いどおりに生きたほうがいいな。そうしないと、後悔するよ」
いきなりこんなことを言われた。
当時のわたしは離婚のことを言っているのかと思っていたが、しばし沈黙が続いた後、叔父が口を開いた。
「この間、初めて霊感占いってのに行ったよ」
と、これまた突拍子もない言葉を発する。
「えっ? なんで?」
「おれは、もう長くないらしい。がんなんだ……」
驚きのあまり言葉にできず、ただうつむいたまま叔父の話を聞いていることしかできなかった。
沈黙が続く。
—— お母さん早く帰ってこないかな……。こんな時は、なんて言えばいいのだろう?
自分の知っている言葉の引き出し全部引っ張り出したけれど言葉が見つからない。
叔父は困っているわたしの気持ちををキャッチしたのか、何やら封筒を出した。
「これ、お母さんに渡しておいて」
「えっ、なんですか?」
「やるわ!」
「おかあさんに?」
「そう伝えて! 帰るわ」
と、出て行った。
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