
聡和(そうわ)は遠くを見つめながら、つぶやくように語りだした。
「あれは、まだワシが若いときのことじゃ……」
「あんた、じじいか!」
「ハハ、いや、いろいろな客がいたよ」
「いちばん、印象に残っているのは?」
「歯が一本ない20代の女性。恋愛相談を真剣にしてくるんだけど、真剣であればあるほど、笑いをこらえるのがたいへんで、たいへんで……」
「へえ~(笑)」
「別のパターンでは、これは客の問題じゃないけど、喫茶店では有線でBGMがかかっていて、当時は沢田知可子の『会いたい』が流行っていたから、占い中に初めてその曲を聞いたときは参ったよ」
「ああ、『あなた 夢のように 死んでしまったの~♪』のやつ?」
「そうそう。『今年も海へ行くって~ いっぱい映画も観るって~ 約束したじゃな~い♪』って泣きそうな声で歌うから、気になって気になって集中できないの。しまいには、相談者に『集中できないので、この曲が終わるまで待ってもらえますか』ってお願いしたもん」
聡和はそう語り終わると、うつむいてこらえるように「クククッ」と震えた(笑)
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