
占い師をしていた頃のお話をもう一つ。
口コミでしかやっていなかったので、鑑定は喫茶店やファミレスなどを利用していた。
その日、紹介で依頼が入った。
依頼者の彼女はなぜか、家から出られないという理由でお宅へ出張鑑定を希望し、わたしは訪れた。
彼女はわたしと同年代で、独身一人暮らしのようだった。
家に入るとアンティークな人形や古い家具がたくさんあった。
ちょっと失礼だが、家の中は暗い感じで気味が悪かった。
異様な雰囲気の中で鑑定が始まる。
鑑定中、妙な気配を感じる。
だれかが話しかけている気がした。
—— だれだろ? わたしたちしかいないし不気味。
無視しながら鑑定していると、彼女がトイレに行くため席を外した。
しばしの休憩。
すると、また妙な話が聞こえる。よく耳を澄ますと人形が話していることに気づく。
何を話しているか再び耳をすます。
〈わたしがいた場所に行って!〉
「えっ? なんで?」
と聞き返しても、それ以上は何も言わなかった。
彼女がトイレから戻り聞いてみる。
「あの、このお人形どこで買ったの?」
「興味あります? じゃこれから行きましょうか?」
「えっ? 今ですか?」
彼女はうれしそうにそそくさと行く用意をし始める。
—— 彼女、家から出られなかったのでは?
腑に落ちない気分だったが、彼女の車に乗ってお店へ向かう。
お店に到着すると、アンティークな古い物がたくさん並んだ骨董品屋だった。
なんだか嫌な予感がした。
中に入るとオーナーが出てきたのだが、あいさつしても無言だった。
—— えっ? 聞こえなかった?
「何しに来た!」
といきなりオーナーに怒鳴られる。彼女が慌ててここに来た経緯を説明しだす。
オーナーは怒りが収まらない。そればかりか、飾られた周りの人形も騒ぎだした。
—— なに、なに? ここに来てって言われたから来たのにどういうこと?
結局、オーナーとは話がかみあわず退散した。
帰りに彼女が申し訳なさそうにわたしをカフェに誘った。
「お茶でもしながらお話できますか?」
「まあ、はい」
お茶をしながらオーナーの話を聞いた。
彼女はオーナーに利用されているらしく、いらない物を売りつけられるらしい。
今後オーナーとどうかかわったらいいかを相談された。
—— ああ~なるほど、それで人形が行けと言ったのね。
オーナーと彼女と今後の対策を話し、その日は送ってもらって帰った。
数日後、彼女から電話が来た。
内容はもちろんオーナーの件だった。
「かかわらないようにしたけれど……」
ああじゃないこうじゃないと相談を受ける。
1時間近く話をしたのだが、わたしは用事があるので電話を切った。
その日の夜、また電話が来た。
またまた同じ話の繰り返し。鑑定ではないのでさすがにわたしは困って今度はすぐに切った。
次の日、朝早くから電話が来た。
しかたなく出るとまた同じ話をされた。さすがにこれはちゃんと話さないといけないと思い伝えた。
「わたしも仕事があるので自分で考えてみてください」
「わかりました……」と電話を切った。
ホッとしたのもつかの間、すぐに電話がかかってきた。
「やっぱり、自分では考えられません」
「そう言われても、困ります」
その日から毎日毎日連絡が来た。多い時では20回以上の日もあった。
さすがに困ったので着信拒否にしたら今度はメールがきて、長い文章が1日に何回も届く。
ある日、仕事で家を出た時だった。
だれかに見られている気がした。周りを見渡すと、あの彼女が来ていた。
—— な、なんで? どして? あ、初めてのとき、送ってもらったからか……。
怖くなって自宅へ駆け込んだ!
—— いやぁ~~。怖い!
それから、しばらくマンションの上から窓をのぞくと彼女の車があった。
メール着信拒否になんてしたら、何をされるかわからない。
しかたないから受けて、返信はしてなかった。
メールの内容はオーナーの件から、完全にわたしへの執着と変わった。
ひどい時には「このままじゃ、すまさないぞ!!」や「殺す!!」と書いてあった。
あまりにも怖くて、警察に相談したら、当時の警察では「何もされてないのでどうすることもできません」と言われた。
でも、これって立派な脅迫ではないかと思う。
それからしばらく怖くて仕事にも行けず引きこもりになった。
仕事もできず、悩んだあげく結局は引越しすることにした。
もちろん、占い師もやめてしまった。
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