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15年ほど前、スーパーで声をかけられた。
「車の免許お持ちですか?」
「いえ、持っていません」
そう答えると、教習所へと見学するよう、言葉巧みに誘導した。
正直なところ、車の免許は私にとって縁のないもの。見学したところで通うはずもない。
そう安易に考え、断り切れないまま、見学へとついていった。

教習所に到着すると、いきなり説明もなく車に乗せられた。
「あ、あの……、私、免許は取る気ないですから!」
「はいはい、わかりましたよ。まずは運転してみましょう」
「えっ!」
あれよあれよという間に、車を走らせ気づいたときには自動車学校へ入れられていた!
—— 私、運転向いていないけどいいのか?
身内からも車は危ないから免許を取らないほうがいいとさえ言われていたので、誰にも言わず内緒で通うことにした。

初めての授業。時間が来るまで、席に着いて待っていると、隣におばあさんが座った。
—— 誰かの付き添いだろうか?
「お姉さん、今日から入るの?」
突然の声に慌てる。「あ、はい!」
「私はここ来て半年になるんだけど、全然受からないのよね」
—— え、ここの生徒さん? 免許取るの?
見た目はかなりの年に見える。60歳は越えているだろう。
それから、何度かその方とは一緒になったのだが、いつしか、先生とマンツーマンの個人レッスンに代わっていた。私は順調に仮免へと進んだ。
おばあさんは一緒だったはずの私に抜かされ落ち込んでいた。
「若いから早くていいわね。私はいつになることやら。これじゃおじいさんにいつ会えることやら」
「えっ? お爺さん?」
「そう、お爺さんが倒れて病院に入院しているから、そこまでの交通機関がほとんどないから自分で運転して行くのに免許取ってるのよ」
「そうだったんですか……」
「ま、免許取っても何年乗れることやら。でもおじいさん亡くなる前には行きたいわね」
おばあさんはニコッと微笑んで行ってしまった。

こんな切ない気持ちから始まった自動車学校物語がはじまった。

(つづく)

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